は男と別れると、ユーリ達が捕まっているという、ヘリオードの騎士団本部に向かっていた。
ヘリオードはカルボクラムの南西にある最近作られた新興の街であり、また騎士団本部が指揮下に置く街でもある。
未だ建設途中なのか、そこかしこには労働者の姿があり、彼らは汗水を流して働いていた。
そんな彼らの脇を通り過ぎ、本部の建物がちょうど視界に移るころ、ユーリ達が騎士団本部から出てくるのが見えた。


「や、おつかれ〜」


がユーリ達に手を振ると、カロルがを発見し、駆け寄ってくる。


!どこいってたんだよ!」
「ごめんごめん、素敵な男性にデートに誘われてた」
「なんだソレ」


ユーリはの言葉に呆れたように肩をすくめると、片手をあげながら、の傍まで歩いてきた。


「それにしても、何でだけ連行されなかったの?」
「そこは、あれ、私がかわいいから」


は唇に人差し指をあて、ふふ、と笑う。


「なにそれぇ!」


カロルが不満そうに言ったが、あら、何か不満でも?とカロルに詰め寄るとカロルは大人しくなった。
それをにこやかに見つめると、はユーリに向き直り、それで結局どうなったの?と、尋ねる。


「なんかしんねーけど、無罪放免になった」
「そうなの?それは良かったねぇ・・・・・・」
「エステルとヨーデル殿下が取り計らってくれたみたいなんだ」
「ふぅん」


がそれ以上興味がなさそうに応えると、ユーリは「早く宿屋に行って休もうぜ」と言った。
さすがの連戦で皆疲れたのか、一様に頷くと、宿屋に向かった。















、起きてよ〜」
「ん〜〜あと10分・・・・・・」


次の日の朝、なかなか起きてこないに痺れを切らし、カロルは彼女を起こしに来たが、揺さぶっても、毛布を引っぺがしてもは起きようとしなかった。


「もう、放っとけよ」


今までの旅の経験で、がこの状態になったら、てこでも動かないのを知っているユーリは、盛大に肩を落として溜息をついた。
リタは既に呆れて部屋の外に出て行ってしまっている。
ユーリはオレたちも行こうぜ、とカロルに声をかけると扉に向かう。
カロルはとユーリの顔を交互に見比べていたが、諦めたのか、ユーリの後に続いた。


「う〜ん・・・・・・・デューク・・・・・・」


は寝返りをうつと、ひっそりと小さく寝言を呟いたが、既に部屋を出かけていたユーリ達には、その言葉は届くことはなかった。















が惰眠を貪り、やっとベッドから起き上がると、既に周りには誰もいなかった。


「あれ・・・・・・皆は・・・・・・?」


これはおいて行かれたかな、と急いで身支度をし、部屋の外に向かう。
宿屋から出ると、異様な熱気と喧騒が結界魔導器のある噴水広場から立ち昇っているのが見えた。
は、魔導器に異様な執着を見せるリタを思い浮かべると、皆はあそこにいるはず、と走り出そうとした。
しかし、その足は一歩も進まず、不思議に思って振り返ると、デュークがの腕を掴んでいるのが見えた。
デュークはそのままを噴水から反対の方に引きずって行く。


「デューク!!」


は皆のところに行かなくちゃ、とデュークに手を離すように言ったが、彼は頑として離そうとしなかった。
その頑なな態度に、理由を尋ねると、デュークはの髪を差して言った。


「その髪のまま行って、ばらすつもりか」
「あっ・・・・・・」


はその言葉に前髪を慌てて手で押さえ、デュークの顔を凝視した。
デュークは怒ったような、心配しているような、悲しげなような、いろんな表情が入り混じった顔をしている。
人を思いやる、彼のそんな表情は、今はもうしか見ることのできない特権だ。
が押えた指の間からは、ほんのりと萌葱色に染まった前髪が見える。
デュークはもうが噴水に行かないことを確認して、掴んでいた手を離す。


「・・・・・・気をつけろといっただろう」
「・・・・・・デューク・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」


はしゅんと項垂れると、デュークの背に自分の背を預けた。
デュークの温もりが背を通して伝わってくる。


「そういえばデューク、カルボクラムには行った?」
「ああ」
「彼、あそこに閉じ込められていたみたい」
「そうみたいだな・・・・・・」
「彼があそこに閉じ込められてた所為でエアルが溢れて大変だったんだぁ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


危うくばれそうになったよ、とは自分の萌葱色に染まった前髪をつまんで呟いた。
デュークはその言葉に振り返り、心配そうにの肩を掴む。
はそんな彼に微笑を返す。


「大丈夫大丈夫、皆エアル酔いでそれどころじゃなかったみたい」
「・・・・・・そうか」


デュークはほっとした様にそう言うと、肩を掴んでいた手を離した。
噴水の方を見ると、どうやら魔導器は落ち着いたようだった。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。
の髪もいつもの色に戻り、もう皆のところに行っていいよねと、デュークの顔を覗くと、彼はああ、と返した。
はふと何かを思い出すかのように唇に人差し指を置いて俯くと、「そうだ!」と言いデュークに勢いよく抱きついた。
さすがデュークは動じずに、を受け止めると、彼女の背に自身の手を回し、組んだ。
はここぞとばかりにぎゅーっと彼を抱きしめる。


「・・・・・・何をしている」
「んー、充電?」
「・・・・・・そうか」


デュークはの背の後ろで組んでいた手を解くと、その手での頭をくしゃくしゃと撫でた。
はくすぐったそうに笑うが、嬉しそうにされるがままにしていた。
そのまましばらくじっとしていただが、もう十分とばかりに抱きついていた腕を外す。


「じゃあデューク、私が傍にいないからって寂しがっちゃダメだよ?」


からかうように上目遣いで見つめると、さっさと行けと言うがごとくに無言であしらわれてしまった。
デュークのいけずぅ・・・・・・とはぶつぶつ呟いたが、足を噴水広場の方に向け、走り出した。















は宿屋の主人に聞いたエステル達がいるという部屋の前に立つと、コンコンと扉をノックした。
開いてんぞ。というユーリの声を聞いて、は部屋の中に入る。
奥を見ると、ベッドにリタが横たわっていて、それをエステルが治療し続けていた。
が訝しげにエステル?と声に出すと、傍に立っていたユーリがエステルに声をかけた。


「治癒術だって無限に使えるわけじゃない。
 もうリタも落ち着いている。その辺にしておけ」
「はい・・・・・・」


エステルは頷くと、やっと治癒術をかけるのを止めた。
ユーリはそんなエステルの姿に呆れたような顔をすると、彼女に背を向けた。


「ったく、無茶ばっかしやがって」
「本当ですね。リタって、決めた事にはどこまでも真っ直ぐで・・・」
「ひとごとにすんな。エステルも同罪だ」
「・・・・・・ごめんなさい」


はエステルに近づき、「私が治癒術をかけるから、エステルはもう休んで?」と言ったがエステルは首を振った。


「わたし、リタがうらやましいです。大切なものを持っているから・・・・・・」


ユーリは体をエステルに向きなおし、諭すような顔をして彼女を見つめる。


「ないなら、探せばいい。そのために今日は休んどけ」
「だいじょうぶです。ユーリこそ、休んでください」
「おまえが倒れたら、オレがフレンに怒られんの」


ユーリはフレンのことを会話に持ち上げ、困ったように肩を竦め、片手をあげた。
それでもエステルは頑として譲らず、ユーリは盛大に溜息をつくと、の傍まで歩いてくる。
ユーリはそのままエステルを振り返らずに、「倒れてから変わってくれって、言われてもオレは知らないからな」と言ったが、エステルもリタの方を向いて振り返らずに、


「倒れてからじゃ、変わってくれって、言えませんから」


と、返した。


「ユーリ?」


がユーリの顔を覗きこみ、声をかけると、外出るぞ、とユーリは返した。

部屋の外に出て階段の方に角を曲がると、カロルが座り込んでいるのが見える。
ユーリはに目で合図を送ると、カロルの方に歩いていく。
カロルのことはユーリに任せれば間違いないだろうと、一人になったは散歩に出かけることにした。














宿屋の外にでると、空は暗く、雨がしとしとと降り始めていた。
は傘を借りに戻ろうか一瞬悩んだが、まあいいや、とそのまま歩き出した。
結界魔導器がどうなったか確かめようと、魔導器の傍に座り込み、制御版を見つめていると、肩にそっとケープが掛けられる。
不思議に思い顔を上げ、振り返ると、そこにはヘリオードについたところで別れた男が立っていた。


「風邪を引きますよ、お嬢さん」


男は胸の前に手をやり、まるで騎士が姫に忠誠を誓うような、お辞儀をして言った。
そういう男の身体にも当然のごとく雨は降り注ぎ、彼の漆黒の髪も、その身に着けた服をも濡らしている。
彼の艶やかな髪に降り注ぐ雨は、限界を迎えると、水滴となり滴り落ちる。


「シュヴァーン・・・・・・」


はその水の流れを最後まで見届けると、男--シュヴァーンに、「あなたっていつも神出鬼没ね」と怒ったように言った。
シュヴァーンは困ったように首を傾げた後、の手を取り立ち上がらせる。


「あいつにまたなんか言われてるの?」


と、は自分の腰に両手をあて尋ねた。


「任務だとしか言えない」
「そう・・・・・・」


きっと、あの子の監視ね、とが続けると、シュヴァーンは一瞬目を閉じ、その目を再び開ける。
は頬に手をやり、眉根を寄せ考え込んだ。
シュヴァーンはその様子をじっとみつめている。


「ね、その仕事、私に任せてみない?」
「なんだって?」


シュヴァーンはの意外な言葉に驚いたように目を見張る。
私と目的は違えども、行動は同じみたいだし、とはにこやかに言うやいなや、シュヴァーンの腕に擦り寄った。


「ね、決まり?」


は異論は認めないと言うがごとくにシュヴァーンを上目遣いで見つめ、うふふ、と妖艶に微笑む。
シュヴァーンはその誰もが心を奪われる彼女の姿に、歯向かえず、息をつく。


「ありがと。そんなあなたが好きよ、シュヴァーン」


は片目を瞑りそう言うと、雨に冷たくなった彼の頬にそっとキスをした。
呆然と、の温もりの宿った自分の頬に手をやり、立ち尽くしているシュヴァーンを尻目に、は彼の腕に擦り寄っていた身体を離す。
はシュヴァーンに微笑むと、じゃ、またね、と手を振りその場を後にした。