扉をくぐり、奥に向かうと、そこは巨大なホールになっている部屋だった。
上を見上げると、魔導器が設置してあり、その周囲を水が囲むように浮いている。
水が浮いているのも、エアルが大量発生しているのも、あの魔導器の仕業らしい。
リタが魔導器をよく調べようとそちらに走りかけると、魔物の声が下から響いてきた。
「な・・・・・・なに・・・・・・?これ、魔物の声、ですか?」
「ま、魔物ぉ・・・・・・!」
下を窺うと、巨大な魔物が結界のすぐ近くにいるのが見え、カロルが叫んだ。
魔物は逆結界に阻まれそれ以上身動きできないようであった。
魔物が苦しげにうめくと、達の周りに大量のエアルが溢れ始め、ユーリ達はその量に耐え切れず、膝をつく。
上を見上げると、魔導器が今にも壊れそうに、光を発していた。
「こりゃ、やばいかな・・・・・・」
「な、なんか消えそう・・・・・・!」
ユーリはそれを見て舌打ちし、カロルは怯え始めた。
その時、魔狩りの剣が別の扉からホールに現れる。
彼らの目的は、今にも逆結界を破り飛び出さんばかりの巨大な魔物のようだ。
魔狩りの剣の首領--クリントは、エアルに酔っているユーリ達に「大人しくしていろ」と言うと魔物に向かって走り出そうとした。
ラピードが何かに気づき、ぴんと耳を立たせ、上を見上げると、ホール一杯に竜の鳴き声が響き、続いて竜使いが現れる。
竜使いは魔導器の傍まで飛ぶと、その鋭い槍で魔核を一突きにし、破壊した。
「またあいつ!」
リタが竜使いに向かって叫んだ。
逆結界が破れ、水が溢れ出すと、結界の下にいた魔物が動き出すのが見えた。
達の周りにあったエアルもその瞬間掻き消える。
クリントが魔物に剣を振り回すと、竜使いが魔物を守るように遮り、竜が魔狩りの剣に火を噴いた。
は状況を瞬時に見て取ると、魔狩りの剣が竜使いの方に目を逸らしている隙に、急いで床を蹴り、魔物の傍に飛び降りた。
「おい、!!」
ユーリが叫んだのが聞こえたが、は振り返らず、魔物に手を差し伸べる。
魔物はそんなの姿をしばらくじっと見ていたが、に背を向けると、そのままホールから出て行った。
竜使いはそれを見届けると、魔狩りの剣のメンバー、ティソンとナンの攻撃を軽くいなし、天井から外に飛び去って行った。
「はあ・・・・・・助かりました」
「・・・・・・カロルは?」
リタの言葉に、辺りを見回しても、カロルの姿はなく、どうしようかと立ち往生していると、魔導器が壊れた影響か、天井が崩れ始めた。
「天井が・・・・・・ここは危険です!」
エステルがそう叫ぶと、魔狩りの剣も早々に撤収していった。
「オレたちもひくぞ」
「待ってください。カロルはどこに!?」
「その辺にいないとこみると、先に外へ出たんだろ。探しながら行くぞ」
ユーリが皆に撤収の合図を送ると、エステルが引き止めたが、部屋の崩壊具合が凄まじいものになりつつあったので、もうこれ以上はそこにはいられず、外に出る事にした。
「カロル無事でよかったです・・・・・・!」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
「ま、ケガもないみたいで何よりだ」
建物の外に出ると、カロルがナンと一緒にいる姿が見えたので、エステルはカロルに駆け寄る。
カロルはナンに魔物を前に逃げ出した事をこっ酷く叱られていたらしく、暗い表情をし、俯いていた。
ユーリはそんなカロルの頭に手を置くと、ぽんぽんっと叩く。
ナンはユーリ達を一瞥すると、カロルに「もう、行くから」と言い、一度もカロルの方を振り返らず、走り去っていった。
ユーリはナンの後姿を見送ると、カロルの頭をぐしゃぐしゃと撫で始める。
「わっ、ちょっと!や〜め〜て〜よ〜!」
「行こうぜ、カロル。もう疲れた」
「ユーリ・・・・・・・」
カロルはその行為を最初は嫌がったが、ユーリの意図を察すると、彼の目を見つめた。
「結局、紅の絆傭兵団、いなかったね」
「やっぱあのおっさんの情報は次から注意しないとな」
の言葉に、ユーリが肩を落とし溜息をつく。
リタがあのおっさんって?と尋ねてきたのでは、レイヴンだよ、と答える。
それを聞いたリタは、さらにレイヴンに復讐の炎を燃やしたようだった。
街の出口に差し掛かると、ラピードが入り口に向かって警戒をし始める。
何かいるのかと、そちらを見ると、ユーリ曰く騎士団の中で一番バカな騎士--キュモールが兵を引き連れてこちらに向かってくるのが見えた。
「ようやく見つけたよ、具民ども。そこで止まりな」
「わざわざ海まで渡って、暇な下っ端どもだな」
「くっ・・・・・・キミに下っ端呼ばわりされる筋合いはないね」
「さ、姫様、こ・ち・ら・へ」
キュモールの言葉にユーリが返すと、キュモールは一瞬悔しそうに地を踏鳴らしたが、気を取り直しエステルに近づくと、手を差し出した。
エステルはその手を避けるように一歩下がる。
カロルが姫様って誰?とユーリに聞くが、ユーリは平然とした顔で、目の前にいるだろ、とカロルに返した。
エステルがびっくりしたような顔でユーリを振り向いたが、知らないのはカロルだけだったらしい。
はカプワ・ノールのラゴウの一件で事情を察していたし、リタもやっぱりね、と腕を組み頷いていた。
それらを見たエステルは目を白黒させていたが、意を決すると、キュモールに近づき、
「・・・・・・彼らをどうするのですか?」
と、尋ねた。
「決まってます。姫様誘拐の罪で八つ裂きです」
「待ってください、わたしは誘拐されたのではなくて・・・」
「あ〜、うるさい姫様だね!こっちに来てくださいよっ!」
キュモールが叫び、合図をすると、横の兵士達がエステルを取り囲み、取り押さえる。
「そっちのハエはそこでしんじゃえ!」
と、キュモールがこちらに剣を構えるのを見て、ユーリも剣を構える。
も戦闘態勢に入ろうとしたが、キュモールのさらに後ろの方から「ユーリ・ローウェル〜!!」とユーリの名を呼ぶ見知った騎士の声が聞こえるのに気付き、構えをといた。
しばらくすると、ルブラン率いる小隊が武器を手に取りこちらに走ってやってくる。
キュモールは後ろを振りむくと、その光景に目を剥き、呻く。
「げっ・・・・・・貴様ら、シュヴァーン隊・・・・・・!」
「ユーリ・ローウェルとその一味を罪人として捕縛せよ!」
ルブランはキュモールの近くまで走ってきて立ち止まると、ボッコス達に合図をした。
合図を受けて、ボッコス達は武器を構えるしぐさをする。
「待ちなよ!こいつは僕の見つけた獲物だ!むざむざ渡さんぞ!」
「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな」
キュモールのそのわめき声に、ルブランはキュモールの隣に並び、目を見据える。
「それに先ほど、死ね、と聞こえたのですが・・・・・・」
「そうだよ、犯罪者に死の咎を与えて何が悪い?」
「犯罪者は捕まえて、法の下で裁くべきでは?」
「・・・・・・ふん・・・・・・そんな小物、おまえらにくれてやるよ」
痛いところを衝かれたキュモールは、ルブランに捨て台詞を吐くと、こちらに背を向けてぶつぶつ何かを言いながら去って行った。
ルブランはそれを見届けると、エステルに向き直り、手を差し出す。
「ささ、どうぞ、姫様はこちらへ。あ、足元にお気をつけて・・・・・・」
「あの、わたし・・・・・・」
「こちらへどーぞ!」
ボッコスがエステルに駆け寄ると、ルブランは、ユーリ達を指差し、「こやつらをシュヴァーン隊長の名の下に逮捕せよ!」と言った。
それを合図に騎士達たちはユーリ達の周りを取り囲むと、そのまま武器を突きつけて、取り押さえた。
カロルとリタは最後まで抵抗していたが、ユーリがエステルの心配そうな顔に、心配しなくてもいいと返す声を聞いて大人しくなった。
ユーリ達が連行されるのを見届けたルブランは、建物の上を見上げると、
「シュヴァーン隊長、不届き者を、ヘリオードへ連行します」
と、声を張り上げて言った。
入り口のほうからルブランの、「全員、しゅっぱ〜つ!」と言う声が聞こえるが、は取り押さえられておらず、呆然と立っていた。
どうしたものか、とが考えていると、背後に気配を感じた。
が振り返ると、そこにはオレンジ色を主体とした隊長格の鎧に身を包んだ男が、立っていた。
「なんだ、貴方か・・・・・・」
と、が呟くと、男は恭しい仕草で彼女に手を差し出してくる。
は目を細め、その手に自分の手を乗せると、男に向かって片目を瞑り、「ちゃんとエスコートしてくれるんでしょうね?」と言った。
男はふっと笑い返すと、の腰に手を回した。
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