フレン達の船に無事引き上げられた達は、そのまま船に乗せてもらい、カプワ・トリムの港についた。
辺りを見渡すと、カプワ・ノールと違い、港街独特の活気のある声がそこかしこから聞こえてくる。


「ありがとうございます。おかげで助かりました。」


ユーリが船の中から助けだした少年が、達に向かってお礼を言った。
フレンが傍に付き従っているところを見ると、身分の高い人物なのであろう。


「ね、こいつ、誰?」
「え、えっと、ですね・・・・・・」
「今、宿を用意している。詳しい話はそちらで。それでいいね?」


リタの言葉に、エステルは言い淀んでいたが、フレンが助け舟をだし、達に提案する。
達が頷くのを見て、フレンは少年に向き直り会釈をし、それを見た少年が頷き返すと、二人は宿屋の方に歩いていった。
その姿を最後まで見届けたは皆の方に振りむくと、


「んじゃ、宿屋に話を聞きにいこっか」


と、言った。


「おまえはダメ」
「えぇ!?なんでぇ?」
「先に着替えて来いよ」


ユーリはの服を指差す。


「え、でも私だけじゃなく、皆もずぶぬれだよ?」
「おまえは目の毒なの!!!」
「フレンも顔赤くしてたしね」


ユーリの言葉にカロルも同意する。
がユーリの理不尽ー!と頬を膨らませている間に、ユーリ達が自分を置いてさっさと部屋に入ってしまったので、
は仕方なく宿屋の主人にタオルを借りに行くことにした。










フレン達の話も聞けなかったし、ちょうどいいからゆっくりしてしまえ、とがシャワーを浴びてから部屋をでると、壁に拳を打ち付けているユーリの姿が見えた。


「ユーリ、どうかしたの?」
「・・・・・・か」


は常に余裕のある態度を見せるユーリの、いつもと違うその焦燥とした姿に、何が起こったのかを悟ると、ユーリの傍に歩いていく。
そしてユーリの正面に立ち、彼の頬を自分の両手で挟むと、俯きかけた顔をこちらに向かせた。


「ねぇ、ユーリ?
 人ってね・・・・・・自分の手のひらに乗る分しか、できない事になっているの。
 やらなくちゃって焦っても、手のひらに乗れない分は、零れ落ちるしかない。
 けれど、」


はユーリの手を取ると、自分の手と重ね合わせて広げ、微笑む。


「・・・・・・ほら、こうやって手を合わせれば乗る分が増えるでしょ?
 一人でできない事も、二人でなら出来る。それが3人、4人ならなおさらね。
 仲間ってそのためにいると思うの。
 でも、そうね、どうしても一人でやらなきゃいけないことがあったのなら、
 零れ落ちるものを拾おうとがんばるんじゃなくて、零れ落ちないようにがんばればいいと思うの。
 自分にできる事を一歩、一歩、確実にね?
 そうすればユーリなら、ばーんとこのぐらい手が大きくなっちゃったりして、ね?」


は両腕を広げ、大きく円を描いてみせる。
そりゃ化け物だろ、とユーリがからかう様にに言うと、は頬を膨らませて怒り出す。


「もう、ユーリってば、すぐそう・・・・・・!」
「冗談だって。
  ・・・・・・自分にできる事を、か・・・・・・」


ユーリはの頭をぽんぽんと軽く叩き、そう呟くと、の眼を見、頷いた。
はユーリのその真剣な表情に、怒りを静めると、じゃあはい、と片手をさしだした。


「なんだよ?」
「手、怪我してるでしょ?」


はユーリの手をとり、治癒術をかけた。


、おまえ、治癒術もつかえたのかよ」
「うん」


もっとはやく言えよ、とユーリに言われたが、まぁそれはいいじゃない、とは返した。

ユーリの手の治療を終え、が宿屋の窓から外を覗くと、通りの方にレイヴンの姿が見えた。


「ユーリ、外出るよ!!」
「お、おい!?」


はユーリの腕を引っ張り宿屋の外に向かった。















「レイヴン!!!」


がユーリの腕を引きずりながらレイヴンに駆け寄ると、レイヴンは振り返らずに顔だけをこちらに向けた。


「おや、ちゃん、またあったね」


青年も、とレイヴンが続けると、それよりも何か言う事あんだろ、とユーリは自分の腕からの手を外し、レイヴンを見る。


「いうことって?」
「ま、騙した方よりも騙された方が忘れずにいるって言うもんな」


レイヴンがとぼけると、ユーリは呆れた顔をした。
レイヴンは顎に手をあてさすりながらユーリを見ると、「俺って誤解されやすいんだよね」と言った。
ユーリはそれを聞いて、皮肉げに口を歪ませる。


「無意識で人に迷惑かける病気は医者行ってなおしてもらってこい」
「そっちもさ、その口の悪さ、何とかした方がいいよ?」


レイヴンは片目をつぶりおどける。
ユーリが「口の減らない・・・・・・」と呟くのを見て、二人とも五十歩百歩と思うけど・・・・・・とは思ったが言わなかった。


「あんまふらふらしてっと、また、騎士団にとっ捕まるぞ」
「騎士団も俺相手にしてるほどひまじゃないって。
 さっき物騒なギルドの一団が北西に移動するのも見かけたしね」


レイヴンはユーリに向き直る。


「騎士団はああいうのほっとけないでしょ」
「・・・・・・物騒か、それって、紅の絆傭兵団か?」


さあ?どうかな、とレイヴンはとぼけ、両腕を頭の後ろで組んだ。
はレイヴンに話しかけようとしたが、ユーリを呼んでいる誰かの声が聞こえるのに気づき、逡巡する。


「あ!ユーリ!おーい!」


声が聞こえる方を振り返ると、カロルが駆けてくるのが見えた。
あんの、オヤジ・・・・・・!!と、肩をいからせ、詠唱しながらリタもこちらに向かってくるのを見て、はレイヴンに声をかける。


「逃げた方がいいんじゃない?レイヴン」
「ひとり好戦的なのがいるからな」


それを聞いたレイヴンは、とユーリに片手を上げて見せると、すぐにどこかへ走り去った。


「待て、こら!ぶっ飛ばす!」


しかしリタは諦めずに、レイヴンを追いかけていってしまった。


「はあ・・・・・はあ・・・・・・。何で逃がしちゃうんだよ!」
「誤解されやすいタイプなんだとさ」
「え?それ、どういう意味?」


カロルが息を切らしながらユーリに言うと、ユーリは片手を振りながら答えた。
誤解されやすいというかなんというか、レイヴンのあの態度がいけないんじゃないだろうか、とは思う。
昔はもう少し真面目だったと思うんだけど・・・・・・と考えていると、レイヴンを捕まえられなかったのか、リタが戻ってきた。
いつか捕まえてやると、燃えているリタを尻目に、息を切らしているエステルとカロルを見たユーリは、休憩したらすぐ行くぞ、と皆に言った。


「行くって、どこに行くの?」
「紅の絆傭兵団の後を追う、下町の魔核返してもらわねえと」
「足取り、つかめたんです?」


その言葉にカロルとエステルはユーリに顔を向けた。
リタはよっぽど悔しかったのか、いらいらと足で土を踏んでいる。


「北西の方に怪しいギルドの一団が向かったんだって」
「北西っていうと・・・・・・地震で滅んだ街くらいしかなかった気がするけどなぁ」


がユーリに続いて言うと、カロルは地図を取り出し、カプワ・トリムの北西の方向を指差す。
はカロルに近寄り、その手元を覗き込む。


「そんなところに何しに行ったんでしょう」
「さあな。だから行って確かめんだろ」
「うんうん、行こ、行こ」
「え、ちょっ、あ、あんたなにすんの!」


は地図に落としていた視線を上げ、エステルとリタの手を取ると、顔を赤くして慌てるリタに笑いかけながら、カプワ・トリムの出口に向かった。