執政官の館は、街人から多大な税を徴収して作ったのであろう、一介の執政官が住む館にしては、贅の凝らした大きな館で、
町から少し離れた橋の先にあり、高い塀に囲まれている建物だ。
評議会議員の立場を笠に着て、自分はやりたい放題贅沢三昧とは、いい気なものである。
館の前の見張りも、金を積んで雇ったようで、いかにも柄の悪い傭兵が入り口に立ち、辺りを見渡していた。
ちょうどがリブガロの角を取りに行っていたとき、1回ユーリ達は館を訪ねたらしいが、
正面から行っても、入り口の見張りに門前払いをされるので、まずはそれをどうにかしないと、中には入れないようだった。
達は見張りの様子を窺いながらも、あちらに気づかれないよう、入り口の手前にある生垣に隠れる。
「ところで、さっきフレンに何を渡したの?」
「ん〜、・・・・・・魔導器?」
「えぇ?、武醒魔導器なんてもってたの!?」
「うん」
イヤリングの形のね、とは付け足した。
ユーリは合点がいったかのようにを振り返る。
「リブガロもそれ使って倒したのか?」
「うん、そんなとこ」
「でもフレンも武醒魔導器もってますよね」
「ん〜、なんていうかあれは普通のとちょっと違くて・・・・・・
・・・・・・拡散器、みたいな?」
実際は違う目的の為にフレンに渡したのだが、それを言うと話がややこしくなるのであえて言わない方向で、かなり適当に説明したが、嘘はいっていない。
しかしそれを聞きつけたリタが興味津々に、何、ソレ?と説明を求めてきたので、
はリタが気にするほどのものでもないって、と手をひらひら振り、誤魔化した。
「よくわかんないけど、特別なものならフレン使い方わかるのかなあ」
「ああ、それなら大丈夫、メモも渡しといたから」
もうこの話はおしまい、とさっさと話を切り上げると、は入り口を指差した。
「ほら、それよりどうやって入るの?」
「裏口はどうです?」
「残念、外壁に囲まれてて、あそこをとおらにゃ入れんのよね」
エステルがに答えると、突然後ろから男の声が聞こえた。
ユーリは執政官の手の者に見つかったか、と剣を構え警戒したが、その男が、ぼさぼさの黒い髪を後ろで一つに束ね、
ちょっと変わった異国風の衣服を身にまとった、いつぞや牢屋で自分を助けてくれた人物であるのに気づき、剣をおろした。
急に声をかけられたエステルは、驚いて声を上げかけたが、男が彼女に駆け寄り、
口に人差し指をあて、「こんなところで叫んだら見つかっちゃうよ、お嬢さん」と、言ったので、慌てて彼女は口を抑えた。
「えっと、失礼ですが、どちら様です?」
エステルが律儀に男にそう尋ねると、男はユーリの正面に回り、よっ、と片手をあげた。
「な〜に、そっちのかっこいい兄ちゃんとちょっとした仲なのよ。な?」
「いや、違うから、ほっとけ」
ユーリは男の言葉にとりあわず、顔を背ける。
はその光景をずっと静かにみつめていたが、
いつまでも自分に気づかない、見知った男−レイヴンに痺れを切らし、肩を怒らせながら彼の前に躍り出た。
「ちょっと!レイヴン!!!」
「ん?
・・・・・・およ、もしかしてちゃん?」
「あまりにも見違えちゃったから気がつかなかったわよ。髪、のびたのね」とレイヴンは続けて言う。
確かにずいぶん会っていなかったが、まったく気がつかないとはあんまりではないか。
がそうレイヴンに抗議したら、固いこと言わないの、と頭をわしゃわしゃ撫でられうやむやにされた。
「、知り合い?」
カロルが尋ねてきたのでは、うん、と答え、レイヴンの紹介をした。
が説明している間も、リタは胡散臭そうに半眼でレイヴンをみていた。
まぁ、確かに見た目からして胡散臭いけど。
「で、そのレイヴンさんとやらがここに何のようだ?」
「つれないこと言わないの。屋敷に入りたいんでしょ?」
レイヴンはユーリにそう言うと、顎の下に手をやりつつ、の方を一瞬窺ったが、
「ま、おっさんに任せときなって」
と、言い、館の方に走っていった。
「止めないとまずいんじゃない?」
「あんなんでも城抜け出すときは、本当に助けてくれたんだよな」
「大丈夫だとは思うけど・・・・・・」
リタとユーリの胡乱げな声にはそう答え、館の方を窺ったが、
レイヴンが何かいったのか、見張りがこちらに向かって走ってくるのを見て目を覆った。
「な、なんかこっちくるよ」
「ごめん、大丈夫じゃなかった」
は釈然としないながらも、カロルの慌てた声に肩を落とし、謝る。
レイヴンはこちらにむかって宙返りを見せ、グットラックと言うがごとくに親指を立てると、屋敷の奥に消えた。
そんなレイヴンの様子を見て、ユーリは盛大にため息をついた。
しかしリタは騙された事に一番頭にきたらしく、
「あいつ、バカにして!あたしは誰かに利用されるのが大っ嫌いなのよ!」
と、叫ぶと、リタは生垣から飛び出し、術の詠唱を始めた。
リタが放ったファイアボールは見事に見張り2人にあたり、男達は倒れる。
「あ〜あ〜、やっちゃったよ。どうすんの?」
「どうするって、そりゃ、行くにきまってんだろ?見張りもいなくなったし」
カロルが尋ねると、ユーリは剣を肩に担ぎ、走り出した。
それをみて、達も倒れている見張りの横を通り過ぎ、館まで走った。
「よう、また会ったね。無事で何よりだ、んじゃ」
館の奥まで走ると、レイヴンがエレベータの前に立っていた。
彼はこちらに向かって挨拶するように片手を上げると、左手にあるエレベータに乗り込んだ。
彼が乗るとすぐにエレベータは起動して、上にあがっていく。
「待て、こら!」
リタが怒鳴りながら、レイヴンが乗ったエレベータの右にあるエレベータに乗り込むので、ユーリ達も走ってそれに続く。
「待って、そっちのエレベータ下りだよ!?」
そのエレベータが下りだと悟ったは彼等に注意を促したが、遅かったようだ。
エレベータは非情にもすぐに起動して、地下に向かって下がっていった。
取り残されたは、どうしたものかと館を窺うと、上の方の窓が開いているのが見えた。
あそこだな、とは小さく口角をあげ、腕まくりをすると、地を軽く蹴った。
が窓から館に入り、辺りを窺うと、ちょうど前方に、階下を窺っているレイヴンの姿が見えた。
「レーイーヴーン」
は音を立てないようにそちらに向かうと、レイヴンの後ろに立ち、怒ったような声で話しかけた。
レイヴンは驚いたように振り返り、の顔を見て瞬きをする。
「あれ、ちゃんどうやってここに?」
「私を誰だとおもってんの」
は腰に手を当て自信たっぷりに言う。
「さすがちゃん、俺様惚れ直しちゃう」
「でしょでしょ」
そう言ってはレイヴンに勢いよく抱きついた。
「ちょっ、ちゃん離れてっ」
「え〜いいじゃない、昔はいつもやってたんだし」
「ソレは昔の話でしょ」
「けち〜」
レイヴンが必死に自分を剥がそうとするので、は不満げではありながらもレイヴンから離れた。
しかし、離れれば離れればで、レイヴンは名残惜しげにを見る。
「いや、まぁ今は今でおっさん役得というかなんと言うか・・・・・・」
「ふぅん?」
「それより青年達はどうしたのよ」
「おいてきた」
「あっそう・・・・・・」
本当はおいてかれたのだが、大した違いはないし、レイヴンが気になっていたので結果オーライってことで。
はレイヴンの顔を覗き込み、尋ねる。
「で、レイヴン何してるの」
「お仕事よ、お仕事」
「ふぅん・・・・・・」
「私、手伝おうか?」
「いやいや、結構よ。ちゃんは青年達のとこ行ってあげて」
なにやら事情はわからないが、レイヴンが動いているのであれば結構な事なのであろう。
今は暇だしと、手伝いを申し出たが断られた。
は不満そうに頬を膨らます。
「せっかくこっちきたのに・・・・・・
・・・・・・まぁいいか、んじゃまたね、レイヴン」
が別れを告げると、レイヴンは彼女に向かって手をひらひらと振って見送った。
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