「・・・・・・なんか急に天気が変わったな」
「もう私、服びしょびしょだよ〜」
は雨を避けるように頭の上に手をかざすと、ユーリの隣に駆け寄った。
エフミドの丘を越えノール港に入ると、快晴だった空は見る間に暗く翳り、激しい雨が降り注いできたのだ。
突然の天候の変化に一行は何も準備ができなく、雨に濡れるがままになっていた。
「ちょ、おま!!!」
「なになに、どうしたの?」
ユーリがの方を見たかと思うと、突然顔を赤らめ顔を背けたので、はユーリの顔を覗き込んだ。
「、服すけすけだよ」
「ガキんちょは見るんじゃない」
リタのチョップがカロルに決まった。
もともとは薄手の服を好んで着ていたため、彼女のスタイルの良い、しなやかな肢体は普段から強調されていたのだが、
雨に濡れてさらに服は体にぴったりとはりつき、しかも細く長い銀糸の髪や長い睫毛から水が滴り落ちるというオプションつきで、
見れば見るほど悩ましいことになっていた。
水も滴るいい女とは正にこのことか。
ユーリとしてはがその格好でも全然構わなかったのだが、通行人の一人がわざわざ立ち止まり、
顔を赤らめてこちらを凝視しているのを見て、その視線から隠すようにを脇に除け、傍に立った。
「いたっ、
・・・・・・リ、リタも子供じゃん〜」
「うっさいっ」
カロルの抗議も空しく、再びリタのチョップがカロルに決まった。
「あ〜服、薄かったしね・・・・・・
ま、きにしないきにしない」
「きにするっつーの!」
「そう?」
ユーリの必死の形相に、じゃあしょうがない、これでも掛けとくか、とは荷物から薄手のコートを取り出して肩にかけた。
ったく・・・・・・とユーリは溜息をついたが、エステルがそんな騒ぎの中でもなにかを考え込んでいるのが気になり、声をかけた。
「エステル、どうした?」
「あ、その、港町というのはもっと活気のある場所だと思っていました・・・・・・」
「確かに、想像してたのと全然違うな」
「でも、あんたの探してる魔核ドロボウがいそうなかんじよ」
「ドロボウがいるのはトリム港だろ」
「どこもおなじでしょ」
「トリム港は違うよ。
・・・・・・ノール港はさぁ、帝国の圧力が・・・・・・」
カロルが皆に説明をしていると、通りの向こうの方で騒ぎが起こっているのが見えた。
どうやらこの街の執政官が町人に無理難題を押し付けていて、それが出来ないと言った町人達の子供を取り上げ、どこかへ連れて行ってしまったらしい。 極悪非道にもほどがある。
傷ついた町人が、子供を返してくださいと、必死に役人にすがり付いてる姿が、執政官の悪行の限りをくっきりと浮き彫りにしていた。
「何、あの野蛮人」
「カロル、今のがノール港の厄介の種か?」
「うん、このカプワ・ノールは帝国の威光がものすごく強いんだ」
「とくに最近来た執政官はやりたい放題だってね〜」
「そんな・・・・・・」
は厳しい目を役人達の方に向けた。
いてもたってもいられなくなったエステルは、傷ついた町人に駆け寄ると、治癒術をかけ始める。
リタとカロルもそんなエステルのそばに駆け寄り、その様子を横から窺った。
「リブガロの角、か・・・・・・」
一連の会話を聞く限りでは、リブガロの角を持ってくれば子供は返してもらえるらしい。
リブガロは雨を好み、樹が密集している地域に生息している、黄金の角と鬣を持つ馬型の魔物だ。
確かこの港の南の丘の方にいると記憶している。
子供が両親と引き離されるという辛さはも十分知っている。 どうしたものかと頭を抱えていると、ユーリが路地裏の方に入って行くのが見えた。
「ユーリ?」
はその行動を不思議に思い、後を追うことにした。
が路地裏に入ると、ユーリは暗殺者らしき男達と戦闘をしていた。
ユーリは敵の一人に衝撃波を決めるが、残った敵は壁を駆け上り、ユーリの死角から攻撃を仕掛ける。
さすがのユーリもあの人数の相手は厳しそうかな・・・・・・とがユーリの元に駆けつけようとすると、トン、と肩を叩かれた。
誰だろう、と思い後ろを振り返ると、フレンが立っていた。
がフレンに向かって頷き、一歩下がると、フレンはユーリの元に走っていった。
ユーリが敵の一人の攻撃を凌いでいたところ、後ろから敵が二人、ユーリを攻撃しようとしたので、フレンは彼を押しのけ、その二人を切り捨てた。
「大丈夫か、ユーリ」
「フレン!おまっ
・・・・・・それオレのセリフだろ」
「まったく、探したぞ」
「それもオレのセリフだ」
突然現れたフレンに文句を言いながらも、ユーリは立ち上がりかけた敵を切り伏せる。
再び別の敵二人がユーリ達に向かっていったが、ユーリ、フレン共に同時に同じ技でそれを切り捨てた。
二人とも息がぴったりである。
成り行きを固唾を飲み込んで見守っていたは、そういえば友達だったけか、と以前ユーリが言っていたことを思い出した。
「ふぅ・・・・・・マジであせったぜ・・・・・・」
すべての敵がもう立ち向かってこないことを確認し、ユーリは安堵の息を漏らすと、剣を鞘に納める。
終わったぜ、と剣を肩に乗せ、の方に向かおうとしたが、突然フレンがユーリに剣をむけた。
「ちょ、おまえ、なにしやがる!」
ユーリは驚き跳び退ったが、フレンのその目は真剣で、とても冗談で行っているようには見えなかった。
「ユーリが結界の外へ旅立ってくれたことは嬉しく思っている」
そう言いながらもフレンはユーリにむけて剣を振り回している。
ユーリはフレンに剣を向けるわけにもいかず、振り下ろされる剣を鞘で弾くといった防戦一方である。
「なら、もっと喜べよ。剣なんか振り回さないで」
「これを見て、素直に喜ぶ気がうせた」
フレンは攻撃をやめると、横の壁に貼られていた手配書を剣で指す。
「あ、10000ガルドにあがった。やり」
「騎士団を辞めたのは犯罪者になるためではないだろう」
「色々事情があったんだよ」
ユーリは手をひらひらと振り、そこのところを誤魔化した。
まぁ、友達が知らない間に犯罪者になっていたら、怒るのも無理はないだろう。
は軽くフレンに同情した。
「ユーリ、謝っといた方がいいんじゃない?」
「なんでだよ」
「なんとなく」
「おまえな・・・・・・。
―――あっ」
フレンの突然の行動に、足を止めていたユーリが、再びこちらに歩いてくるのが見えたので、はユーリに向かって手を振ったが、
ユーリがの後ろを見たのに気づき、後ろを振り返れば、エステルがこちらに歩いてくるのが見えた。
「ユーリ、さっきそこで何か事件があったようですけど・・・・・・」
「ちょうどいいとこに」
「・・・・・・フレン!!!」
エステルはフレンに気がつくとすぐに嬉しそうな顔をしてフレンに駆け寄り、彼の体をぺたぺたと触り始める。
「よかった、フレン。無事だったんですね?ケガとかしてませんか?」
その有様はまさに恋人同士の触れ合いの様で、あれ?もしかしてらぶらぶ?とが半ばにやにやしながら二人を眺めていると、フレンが焦ったようにエステルを止めた。
「・・・・・・してませんから、その、エステリーゼ様・・・・・・」
「あ、ごめんなさい。わたし、うれしくてつい」
フレンはやユーリの方を見ると、思案するように顎に手を当てた。
「・・・・・・・こちらに」
「え?あ、ちょっと・・・・・・フレン・・・・・・お話が・・・・・・!?」
フレンはエステルの手をとると、達の脇を通り抜け、二人で宿屋の方に走っていった。
私もフレンに話があったんだけどな・・・・・・とは思ったが、黙って見送ることにした。
ユーリの方をみると、呆れたような顔をしている。
「・・・・・・カロルとリタを先に拾うか」
「ちょっと私用事があるから、先行ってて」
はそう言うと、ユーリもフレンと同様に送り出した。
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