当初の目的のハルルにはすでにフレンはいなく、ご丁寧にもユーリの手配書の裏に書いた手紙を、ハルルの長に託してどこかへ行ってしまったようだった。
置手紙を残すぐらいだったら、行き先も告げていけばいいものの、長に詳しく聞いても行方は分からないと答えられた。
達は仕方なく、フレンはカプア・ノールに向かったと見当をつけ、ハルルから西にあるエフミドの丘を登る道を歩いていた。
本当は街道を進めばすぐカプア・ノールへの出口だったのだが、リタが騎士団とひと悶着をおこしてしまったのと、
ユーリとエステルを追ってきた騎士、ルブラン達に出くわしてしまったので、やむなく街道と違う道を進むことになったのだ。
街道を一歩外れると、そこは辛うじて道らしきものは残っているが、草木は好き勝手に生え、しばしば行き先を塞ぐ獣道であった。
その鬱陶しい風景に見飽きたは、エステルとの他愛のない会話を楽しんでいた。
「しっかしおかしかったなぁ、あの手配書。あんなんでユーリってわかるの?」
「わたしは似てると思ったのですけど・・・・・・」
「えー!そう・・・・・・?
・・・・・・それにしても、5000ガルドかぁ・・・・・・私も負けらんないねっ」
「何変なとこで張り合ってんの、あんた」
「そうですよ」
リタとエステルが呆れた様な顔をに向けた。
だって、賞金額高い方がうれしくない?とユーリに同意を求めたが、はいはい、と頭を軽くポンポン叩かれて適当にあしらわれてしまった。
丘の登りの中間地点らしきところは、ちょうど広場みたいになっていて、その斜面は高い崖が聳え立っていた。
その崖の方に達が近づくと、魔物の唸り声のようなものが上から聞こえてくる。
「うわぁああああ!あ、あれ、ハルルの街を襲った魔物だよ!」
カロルが崖の上を見上げ、狼が変異したような、巨大な魔物見つけると、それを指差して叫ぶ。
その異様な魔物の姿に、ユーリはこれ持って下がっとけ、とに剣の鞘を預けると、庇う様に魔物との間に立ち、魔物を睨んだ。
その眼光は鋭く、魔物の姿をそれだけで射抜きそうであった。
「へえ、こいつがね。生き残りってわけか」
「ほっといたらまたハルルの街を荒らしに行くわね、たぶん」
「でも、今なら結界があります」
「結界の外でも近所にこんなのいたら、安心してねむれねえからな」
「く、くるよ!!!」
緊張感を漂わしながらも、あくまでものんびりとした3人の様子にカロルが注意を飛ばした。
魔物は2匹の子供連れで、親を集中的に狙おうとすると、子供がその隙を見計らってこちらを攻撃するというコンビネーションを繰り出してくる。
しかし、かといって、一撃の威力が大きい親を野放しにはできない。
そのおかげでユーリ達はなかなか有効打を与えられないでいた。
は一歩さがったことで戦局の隅々まで見る事が出来たので、目の前の光景を観察しながらも、周りをすばやく見渡した。
ユーリの傍を見やると、ビリバリハの花がひっそりと咲いているのが眼の端に映る。
「ユーリ、ビリバリハの花をつかって!」
「ん、なんだよそれ」
「ユーリの横にある花!花粉が強い毒になっているんだ。
魔物も花粉を吸い込んだら気絶すると思う!」
その言葉を聞いたラピードがワン!と一声鳴き、魔物をビリバリハの花の傍までひきつけると、ユーリがその瞬間を見計らい、花に衝撃波を撃った。
刺激を与えられた花は花弁を撒き散らし、魔物の周囲に花粉を舞わせる。
作戦は成功のようだ。魔物が花粉を吸い込み、痺れて動けない隙をついて、カロルがとどめだ!と、最後の一撃を与えた。
「うわあ・・・・・・」
「あれ、ここって・・・・・・」
「ユーリ、海ですよ、海」
「わかってるって。
・・・・・・風が気持ちいいな」
達は海がはるかに見渡せる丘の頂上についた。
どこまでも、果てしなく続くその紺碧は、日の光をうけて、きらきら白く輝き、見るものを魅了するものであった。
エステルが崖の方に走って行ったので、危ないぞ、と声をかけながらもユーリはその後に続く。
はこの場所には見覚えがあった。
確かこっちの方に・・・・・・と、ユーリ達から少し離れたところに向かった。
「・・・・・・あった」
は小さな石が崖のすぐ近くに立っているのを見つけた。
石の前に立ち、手を胸の前で祈るように組むと、は目を閉じた。
エステルの方を向きながらも、にも目を配らせていたユーリは、のその行動に、何してんだ、あいつ、と訝しげに首を傾げる。
さて、とがユーリ達の方を向くと、エステルの、初めての海に興奮したのかどこか調子の違う声が聞こえた。
「、なにしてるんです?」
「ん、ちょっと、ね・・・・・・」
「これは・・・・・・お墓でしょうか」
「墓?こんなところに?」
「・・・・・・エステル?」
エステルが石に駆け寄る気配を感じて、そちらに目を向けると、エステルの祈りをささげる仕草が見えた。
はそんなエステルの姿に、目を伏せ微笑むと、
「・・・・・・ありがと」
と、呟いた。
「何か言いました?」
「ううん、なんでも。さ、いこいこ」
エステルはまだ名残惜しそうに海をみていたが、ユーリの「旅が続けば海はまたいくらでも見られるさ」と言う言葉に頷いた。
カロルは先を急ぎたいのか、こちらに向かって早く早く、と叫んでいる。
「慌てると崖から落ちるぞ」
「え・・・・・・。
・・・・・・うわぁああああああああああああああっ」
「バカっぽい・・・・・・」
ユーリの注意もむなしく、カロルは危うく崖から落ちそうになったが、
慌てて自身の腕をバタバタさせて落ちまいと身体をそらせたことで、辛うじて崖上に止まることが出来た。
リタの呆れた声が聞こえたので、うん、私のいつものポジションをありがとう、カロル先生。とはカロルにひっそりエールを送った。
|